弔辞

大学院の同級生が亡くなった。
脳卒中だったそう。
2ヶ月程前,演奏会のために実家の金沢に帰る前に借りてたDVDを返したいから、と池袋で会ったのが最後になった。
そのときは元気だった。
彼女は他大学から来た少し年上の人で、学部が他専攻だったために声楽科の雰囲気に馴染めないでいたあたしとは、何がきっかけだったか、いつのまにか話すようになって、いつのまにか仲良くなった。
院2年のとき、オペラの週2回の稽古のあとは、毎回ふたりで甘いものを食べて何でもない話をしてから帰っていた。
不思議な人だった。とてもマイペースでひょうひょうとしていて、歌が大好きで、少し頑固で、勉強家で、優しくて。
あたしの運転する車に、今のところ、家族以外で乗った唯一の人。
あたしは彼女に対して少しつっけんどんな言い方になってしまうことが多々あって、別れた帰り道によく自分の態度を悔いた。
背が高くて、足が長くて、少しクラシックな服装が似合うひとだった。
修士試験ではあの大変なベートーヴェンの「フィデリオ」の抜粋を素晴らしく歌いきった。


最後に会ったとき、もうすぐ誕生日だと言っていた気がして、さっき携帯に登録してある彼女の生年月日を見たら、ほんの十日前に30歳になったばかりだった。あたしはおめでとうメールも送っていなかった。


いろいろ考えてしまう。
ご実家で家族に見守られながら亡くなったのは不幸中の幸いだったのかな。
神経質で身体の弱かった彼女が2年間のハードな大学院を立派に修了したのは、きっとすごいことだった。
30年の人生、彼女は幸せだったのかな。
それはあたしには想像することしかできないけど、確実なことは、早すぎる死だってこと。


恵子ちゃん
もう会えないなんて信じられない。
ニースに行く前に連絡しようと思ってたんだよ。
演奏会、カルメン歌うって言ってたよね。言葉が多くて覚えられないって。うまくいったのかな。
恵子ちゃん
天国でもずっと歌い続けてね。
おちついたら会いに行くからね。


合掌