読了2冊

入試誘導員のバイトで1日8時間座っていたので、読書が進む。あー嬉しいそして腰痛い。
明日は10時間。

黒い仏 (講談社文庫)

黒い仏 (講談社文庫)

九世紀の天台僧・円載にまつわる唐の秘宝探しと、一つの指紋も残されていない部屋で発見された身元不明死体。無関係に見える二つの事柄の接点とは?日本シリーズに沸く福岡、その裏で跋扈する二つの力。複雑怪奇な事件の解を、名探偵・石動戯作は、導き出せるのか?賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作。


これはどうだろう・・・裏表紙に「賛否両論」って書いてあったのだけど、読み終わった感想は「そりゃそうだ・・・」。
たぶん「否」の方が多かっただろうと勘ぐってしまうほど、ミステリとしては完全に反則技。てかミステリですらないような・・・
でも確実に作者は意図的に、あからさまに反則をしかけているし、そのうえ自分が生み出した名探偵までも小馬鹿にするような結末をつけてしまっている。
それでも古今東西の「名探偵」の謎解きショーの裏でこんな真実が進行してたらちょー怖いなぁと思ってしまった。
つまりそれなりに楽しめた、ってことで。


世紀末の隣人 (講談社文庫)

世紀末の隣人 (講談社文庫)

あなたの隣で起きた12の事件。
<寄り道・無駄足>ノンフィクション
池袋の通り魔、音羽の幼女殺人、少女監禁、カレー事件、リストラ、田舎移住、ニュータウンの30年……。世紀末の1年の事件は、21世紀のいまも「現役」。遠くて近い隣人たちのドラマに寄り道しつつ迫ってみると、そこにはあなたとよく似た顔が・・・。直木賞作家による異色ルポルタージュ。(『隣人』改題)


去年の同じ時期、同じ入試バイト時に初めて読んだ重松作品が『疾走』だった。それから早くも1年。
この1年で重松作品はいくつか読んだけど、この「世紀末の隣人」から「疾走」以来の衝撃を受けた。
一応ノンフィクション、ルポルタージュ、という形をとっているけど、実際は著者が21世紀直前に起った様々な事件現場に足を運びそこで思ったこと、ときにはマスコミの報道を読んで感じたことを徒然なるままに書きつづっている、といった感じの文章。
取り上げる事件は今も記憶に強く残るものばかりである。
その事件を眺める視点はとても個人的であり、そういう意味では「ルポルタージュ」を名乗るのには多少違和感を感じるが(著者本人は名乗っていないのだけど)、読者は著者と一緒に事件の起きた場所を歩き、挟み込まれる報道記事から事件当時の様子を知り、著者の目をかりて加害者被害者のおかれた環境を知ることで、その事件がとても「悲し」く「孤独」な人間の起こしたものであるということにあらためて気付く。
そしてその「悲しい孤独な人間」は自分の隣人や、いやむしろ自分であったかもしれないことにふと思い当たるのだ。
読みながら、著者は加害者に対して甘すぎる、とも思った。
でも「事件を起こす」というのりこえてはいけない大きな壁の手前を覗いてみれば、同じような人がいるのだ。自分と。
あたしは、事件を起こした人と起こさない人との距離は大きく隔たったものだと強くわかりながら、それでも隣人たちに共感をおぼえる。
痛くて悲しくて寂しくて・・・でも生きていかなくては、と優しく諭してくれる1冊。